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医療の限界とは何か?(3)



医療の限界とは何か?(3)





『医療の限界』(小松秀樹 新潮社
2007年6月20日 発行)を読んで、
医療の現状を知り、感じたことを
書いてみます。


お伝えすべきことが多く、
また私の感想や意見もかなりのスペースを
割くことになりますので、3回にわたって
お伝えしていきます。


まず、著者について紹介しておきましょう。
現在、虎の門病院泌尿器科部長をされて
います。


「2006年に『医療の崩壊 「立ち去り型
サポタージュ」とは何か』で、病院医療の
危機を克明に描き、発現する第一線の
臨床医として注目される」
(上掲書 著者紹介 から)


著者、小松秀樹(小松)さんは「はじめに」で
次のように書いています。


日本の医療は今、崩壊の危機に瀕している、と。


 いま、日本の医療は危機に瀕しています。

 不確実なことをそのまま受け入れる大人の

 余裕と諦観が失われました。このため、

 本邦では医療のみならず、専門家と非専門家

 の齟齬(そご)が、社会の正常で円滑な運営

 の障害になっています。本書では、社会を

 支える基本的な考え方についての齟齬を、

 可能な限り偏見から自由になる努力をしつつ、

 凝視したいと思います。一部の方は不愉快に

 思われるかもしれませんが、その際には、

 不愉快の根源をどうかお考えいただきたい。
 

  (『医療の限界』 PP.3-4)


そして、この書の眼目とも言えることを吐露しています。



 日本の医療を守っていくためには、医療提供側

 の努力だけではなく、患者、司法、メディアなど、

 社会の側にも医療に対する認識を変更してもらう

 必要があると感じました。
 

  (上掲書、以下同様 P.5)


変化についても述べています。これは前進です。


 東京地検に出向いて議論もしたし、その後、

 検察官が医療現場の実情を現場で見学する

 ようになりました。検察が様々な分野の

 専門家や、ヒューマン・ファクター工学の

 専門家のレクチャーを聴くようになりました。

 これは、各専門分野と検察の相互理解、

 ひいては、過失犯罪に対する検察の合理的な

 対応にむけての、意味のある進展だと

 思います。
 

  (P.7)


小松さんが憂慮していることは、次のことです。


 私は医療崩壊の原因は患者との軋轢(あつれき)

 だと思います。使命感を抱く医師や看護師が

 現場を離れつつある。

 このまま事態が進んでいくと、結果的に困る

 のは医療を必要とする患者とその家族です。
 

  (P.8)


小松さんは突き放しているのではありません。
危機感を抱き、率直に述べているのです。



では、始めます!


医療現場の労働環境

小松さんは、医療現場の労働環境の実態を
つぶさに語っています。


この現状では、ヒューマン・エラー
(アクシデント)が起きても不思議では
ないと感じられます。


「ICU(集中治療室)化している」
(P.148)という言葉が象徴的です。


 日本の医療現場の労働環境は非常に過酷

 なのです。厚生労働省による診療報酬

 体系の改定で在院日数が短縮化されたため、

 私の勤めている虎の門病院のような急性期

 病院が全体的にICU(集中治療室)化

 しています。病棟ではさまざまなアラーム音

 が頻繁に鳴り響いている。私が主として利用

 している病棟(病床数56)では、患者を

 手術室に運び、また迎えにいくといった作業

 だけで1日10往復を超えることもあります。

 医療行為の瑕疵を問われないようにするため、

 手続きが複雑化しています。手術室で患者を

 受け渡す際には確認事項が多く、33項目の

 チェックリストがある。これだけで長時間の

 労力が要る。もちろん他の入院患者にも手が

 かかるし、随時、記録を残さなければいけない。 
 

  (PP.148-149) (註:赤文字は藤巻 以下同様)


ICU(集中治療室)化とは、どのようなもの
なのでしょうか? もう少し、具体的に解説して
いる個所がありますので、一緒に見てみましょう。


 ICUというのは重症で手間のかかる患者を

 治療する病棟ですから、通常の病棟よりも

 多数の看護師が配置されている。

 通常の病棟のICU化とは、看護師の労働が過酷

 になっているのに、それに見合った形での増員は

 なされていないことを意味します。

 こうした病棟では深夜勤務がとくに危ない。

 看護師2人で30~50名の患者を管理しな

 ければなりません。これは危険なことです。

 例えば、人工呼吸器はちょっとしたことで

 不具合が生じやすく、不具合が10分以上

 続くと、重大な被害が発生します。

 人工呼吸器を装着している患者がいると、

 人手さえあれば、起きないはずの事故が

 起きるのは当然のことです。
 

  (P.149)


こうした対応は、患者の家族(誰でもなりうる)は
欧米化、特に米国化していると言えます。
米国は訴訟社会で、しばしば企業よりも個人を尊重
する評決がなされます。


日本では、訴訟にまで発展するケースは多くないかも
しれません。示談で済ませることが多いでしょう。


いずれにせよ、訴えないと損だ、という風潮が増加
傾向にあると見ています。「泣き寝入り」はしない、
ということです。


いったん、事故が起きるとどうなるのか、
生なましい実態が報告されています。


 いったん事故が起きると、患者の家族は人員

 配置やコストの問題ではなく、あくまで善悪の

 問題としてとらえます。しばしば看護師を処罰

 することを求め、賠償金を要求します。

 もし院長が安易に患者の立場に立ってしまう

 ようだと、看護師の士気は落ち、大量辞職も

 起こりかねません。
 

  (PP.149-150)


どうしてこのようになってしまったのでしょうか?
それは、厚生労働省(国)による医療費の抑制政策
がとり続けられているからです。


 医療の崩壊が現実のものとして危惧されるなか、

 06年4月の診療報酬改定では、物価上昇傾向

 の中でマイナス3.16パーセントという史上

 最大規模の医療費削減が実施されました。

 日本の医療費は、80年代前半以降世界に例を

 見ない抑制政策が取られ続け、さらに強化されて

 います。
 

  (P.150)

患者に対する医療費は抑制し、予防医学という名目で
「検査」を多くし、「早期発見、早期治療」を国是として
いますが、余計な検査が多く、検査費用のほうが
かかっているという実態もあります。


いわゆる「検査漬け」です。検査、検査でいじくり回し、
かえって病状を悪化させている点も否めません。



市場原理の医療の怖さ

米国の医療費は非常に高額で、また保険料が高いために
低所得者では保険に加入することができません。


米国で自己破産の原因の第1位は何だかご存知ですか?
医療費です。


以下の記事は、「アメリカの自己破産の6割は高額な
医療費が原因」と言うものです。


 アメリカの自己破産の6割は高額な医療費が原因!

 もちろんアメリカにも国が運営する健康保険

 はありますが、加入できるのは高齢者と

 低所得者だけ。それ以外の人は勤務先などを

 通じて民間の医療保険を契約しますが、

 2008年時点で何の保険にも入っていない

 無保険者が全米に4570万人もいました。
 
 
 アメリカで自己破産した人の6割以上は医療費

 が原因。ですが、そのうちの8割以上が民間の

 医療保険に加入していたというから驚きです。


 (オバマ大統領は)一応の改革は行ったものの、

 民間の医療保険の加入を義務付け、その保険料

 を税金で補助することにしただけです。

 アメリカではますます医療破産が増えるので

 ないかと危惧されています。
 

  アメリカの自己破産の6割は医療費が原因…。
 (ダイヤモンド社 書籍オンライン から)


アメリカ社会を一言で言えば、
「アメリカにおける競争は徹底した個人同士の
競争」(P.184)
ということになります。


小松さんは、アメリカの病院に勤務していた医師
の体験を紹介しています。


 大井(玄、東京大学国際保健学元教授)氏は、

 職場は戦場であり、常に、競争、喧嘩、敗北

 を意識しながらの生活だったと書いています。

 病院では、競争の残酷な結果、すなわち、

 金持ちと貧乏人に対する極端な扱いの差を

 目撃しました。

 大井氏は、日本に帰国して、数年後、寝たきり

 老人や認知症の老人の宅診事業を始めたとき、

 診療後、自分が、決まって急性反応性うつ状態

 になることに恐怖狼狽しました。その根底には、

 能力を失い他人に依存すること、他者に自尊心

 を傷つけられること、自我が崩壊していくこと

 に対する恐怖がありました。彼の若い同僚たち

 にはそうした反応は起きませんでした。

 大井氏は、その原因を、「アメリカという本物

 の競争社会に生活し、競争の苛酷さを目撃した

 から」と分析しています。 
 

  (PP.185-186)


こうした反応は、アメリカという競争社会で生活
した人でなければ、分からないことでしょう。


さらに、自分自身が「寝たきり老人や認知症の
老人」になった時の姿を想像したからなのでしょう。


大井氏が体験したことが、さらに紹介されています。
先の話は、大井氏がアメリカ社会で垣間見た過酷な
競争の実態でした。


今度の話は、アメリカから日本の大学に留学してきた
女子大学院生が受けたカルチャーショックについて
です。


 大井氏は、ハーバード大学から東大に修士論文を

 書くためにきていた女子院生が、逆のカルチャー

 ショックを受けていたのを目撃しました。とくに、

 大学院生がお互いに助け合って仕事をしていること

 に、彼女は、倫理的怒りを含む衝撃を受けました。

 「『信じられないわ。ハーバードではだれもが他の

 だれとも競争しているのに!』」

 彼女にとって同僚とは、すなわち競争相手であり、

 自分が成功するためには打ち負かすべき対象であり、

 決してアイデアを提供して実質的援助をおこなったり、

 自分が独創性あると考える着想を共有する者では

 なかった。


 日本人は、はたして、市場原理主義が求める徹底

 した個人間の競争に耐えられるでしょうか。

 市場原理主義は、宗教を背景にしており、歴史的、

 倫理的に日本人にはなじみのないものです。
 

  (PP.187-188)


日本も少しずつアメリカ的な競争社会に変貌しつつ
あります。そこには弱者は切り捨てられ、強者のみが
繁栄する「格差社会」の到来です。


1%の金持ちと99%の貧しき者という社会が、
現実味を帯びてくることでしょう。


同じ病を患っても、金持ちは治してもらえるが、
貧乏人は適切な治療を受けられず、野垂れ死ぬ
ということが当然のこと、となるかもしれません。


日本社会の伝統に「思いやり」があります。
アメリカの女子院生がカルチャーショックを受けた
「助け合いの姿」は「思いやり」の気持ちが根底に
あります。


日本人の伝統である「相手を思いやる」気持ちが
薄れたり、なくなると、刺々しくギスギスとした社会
になることは間違いありません。


「お・も・て・な・し」が流行語となりましたが、
「おもてなし」は度を過ぎると、余計なお世話になり、
迷惑がられます。押し付けになってはいけません。


その点で、「思いやり」は奥ゆかしさがあり、
相手の気持ちを尊重した態度です。


そのあたりの感覚は、アラカン(アラウンド還暦)の
私の世代以上の人間と、若い世代の人間とは、
意識の差があるかもしれません。


今回、『医療の限界』を読んで、深く考えさせられ
ました。医療の限界だけでなく、あるゆる面で、
日本社会が大きく変貌しつつあることを実感した
からです。


現在の安倍政権は、確実に「格差社会」を促進
するための施策を打ち出しています。


大前研一さんが提唱した「生活者」の生活が、
日に日に苦しくなっていくような政策を、矢継ぎ早に
実施しています。


「機会の平等、結果の不平等」は、しかたのないこと
です。やってもやらなくても結果が同じでは、やらない
ほうがいいとなるからです。役人のように。


スタートラインに立って、よーいドンでスタートしたが、
一方は圧倒的に早くトラックを駆け抜け、ゴールのテープ
を切り、後続者は数秒遅れでゴールしました。
明らかな順位がつきました。


力の差は歴然です。
それは認めざるを得ませんね。


ですが、機会が平等に与えられず(スタートラインに立つ
ことができず、つまり門前払いされ)、結果だけ不平等
(上位入賞者と着外)では、大多数の生活者は納得でき
ません。競争に参加できないのですから。


今後も医療問題について追究していきます。
他人事では済まされません。


「私には関係ない」、と言い切れますか?


重いテーマを最後まで読んでいただき、ありがとう
ございました。





"
現代医療の限界ー現場医師の本音





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医療の限界とは何か? (2)



医療の限界とは何か?(2)






『医療の限界』(小松秀樹 新潮社
2007年6月20日 発行)を読んで、
医療の現状を知り、感じたことを
書いてみます。


お伝えすべきことが多く、
また私の感想や意見もかなりのスペースを
割くことになりますので、3回にわたって
お伝えしていきます。


まず、著者について紹介しておきましょう。
現在、虎の門病院泌尿器科部長をされて
います。


「2006年に『医療の崩壊 「立ち去り型
サポタージュ」とは何か』で、病院医療の
危機を克明に描き、発現する第一線の
臨床医として注目される」
(上掲書 著者紹介 から


著者、小松秀樹(小松)さんは「はじめに」で
次のように書いています。


日本の医療は今、崩壊の危機に瀕している、と。


 いま、日本の医療は危機に瀕しています。

 不確実なことをそのまま受け入れる大人の

 余裕と諦観が失われました。このため、

 本邦では医療のみならず、専門家と非専門家

 の齟齬(そご)が、社会の正常で円滑な運営

 の障害になっています。本書では、社会を

 支える基本的な考え方についての齟齬を、

 可能な限り偏見から自由になる努力をしつつ、

 凝視したいと思います。一部の方は不愉快に

 思われるかもしれませんが、その際には、

 不愉快の根源をどうかお考えいただきたい。
 

  (『医療の限界』 PP.3-4)


そして、この書の眼目とも言えることを
吐露しています。



 日本の医療を守っていくためには、医療提供側

 の努力だけではなく、患者、司法、メディアなど、

 社会の側にも医療に対する認識を変更してもらう

 必要があると感じました。
 

  (上掲書、以下同様 P.5)


変化についても述べています。これは前進です。


 東京地検に出向いて議論もしたし、その後、

 検察官が医療現場の実情を現場で見学する

 ようになりました。検察が様々な分野の

 専門家や、ヒューマン・ファクター工学の

 専門家のレクチャーを聴くようになりました。

 これは、各専門分野と検察の相互理解、

 ひいては、過失犯罪に対する検察の合理的な

 対応にむけての、意味のある進展だと

 思います。
 

  (P.7)


小松さんが憂慮していることは、次のことです。


 私は医療崩壊の原因は患者との軋轢(あつれき)

 だと思います。使命感を抱く医師や看護師が

 現場を離れつつある。

 このまま事態が進んでいくと、結果的に困る

 のは医療を必要とする患者とその家族です。
 

  (P.8)


小松さんは突き放しているのではありません。
危機感を抱き、率直に述べているのです。



では、始めます!


医学と司法の埋めがたい深い溝とは?


医学と司法との間にある深い溝について
書いています。


第1回に少々取り上げましたが、
著者小松秀樹さんは、医学と司法との間には
隔たりがある、という話を書いていました。


具体的見ていくことにしましょう。


 医療においても、警察は判断能力を持ちません。

 医療は危うくなった生命を救おうとしますが、

 しばしば成功しない。医療は極めて多様な決定を

 しながら実施されます。その中には、通常ならば

 考えつかないような妙案、ほぼ適切なもの、多少

 は不適切なもの、非常に不適切なもの、いろんな

 ものが混じり合うのです。ある状況での正しい

 医療行為は、一つに限定されるわけではない。

 正しい医療、あるいは選択可能なものは多数あり

 ます。
 

  (PP.76-77) (註:赤文字は藤巻 以下同様)


ここでの説明を読みますと、多数の選択肢から
医師が状況に応じて、迅速、的確に判断し医療
行為を実施していかなければならないことが、
分かります。


そうした中で、人間が行う以上、「誤り」が生じる
ことを防ぐことは極めて難しいと言えます。


「To err is human, to forgive divine」(過つは
人の常、許すは神の業)(P.45)という言葉は、
医療においても当てはまる、と小松さんは考えて
います。


そのことの証左として、次の言葉があります。


 医療は常に不完全技術です。完璧でなくても

 やらないといけない。いつも改善すべき点が

 存在する。改善するための努力を常にしている

 のです。
 

  (P.77)


そのような実情を知らず、警察官も検察官も医療に
踏み込んでくることに批判的な意見を述べています。


 警察官も検察官も医療についてあまりに

 知りません。私が手術をしたある検察官

 が言っていました。

 「医療がどのような経過で進められて

 いるものかが、想像できていなかった。

 さらに自分が想像できていないことが、

 想像できていなかった」。彼は、医療

 従事者側から医療をみたわけではなく、

 ただ患者として手術を受けただけにすぎ

 ません。手術前後の医療側の業務の多さと、

 夜勤看護師の業務に驚嘆したようでした。
 

  (PP.77-78)


医師法第21条について書いています。
この規定は、異状死は警察に届けなくては
ならないというものです。


 医師法第21条は、「医師は、死体又は

 妊娠4月以上の死産児を検案して異状が

 あると認めたときは、24時間以内に

 所轄の警察署に届け出なければならない」

 と規定しています。
 

  (P.81)


異状死として届け出ると警察はどのような行動を
取るのかについては、このように書いています。


 異状死として届け出ると、警察は犯罪がある

 ことを念頭に操作を始めます。犯罪を前提に

 捜査する以上は、被害者、被疑者としてみる。

 しかも家族が被害感情を持った場合、それは

 容易に警察官に伝播します。警察官も同じ

 ような感情を持つようになると、犯罪を前提に

 事情聴取を行い、ときには乱暴なことをしだす

 のです。

 しかも司法解剖の結果が病院に伝えられない

 ため、かえって紛争が拡大するということが

 起きています。
 

  (P.83)


「司法解剖の結果が病院に伝えられない」という
事実を初めて知りました。


警察官は「先入観」を抱いて捜査することが習慣化
されているため、時に大きな誤りを犯すことがあり
ます。



医学は未来志向、司法(法学)は過去と照合し検討


医学と法学との間に深い溝がある理由は、
医学は未来に向かって変化していくものに対して、
法学は過去の文章や判例の検討にある、
と小松さんは考えています。


方向性が異なるということです。
ですから、交わることがないという考え方です。


 医学は未来に向かって日々変化するものです。

 他方、法律家は、過去の文章や判例が検討の

 対象であり、未来への働きかけをあまり考え

 ません。医学の膨大な知見を無視して、感情や

 駆け引きで医療の瑕疵を追及し、法律の都合に

 合わせるのは危険なことです。
 

  (PP.95-96)


ただ、警察官や検察官、さらに裁判官に
「医学の膨大な知見」を理解することを
求めるのは、無理があるのも事実です。



知的財産高等裁判所

刑事事件と民事事件の違いはありますが、
裁判官が科学的な知識が乏しいために、
研究者が開発した特許技術を正当に評価
できなかった話を今、思い出しました。


現在では電光掲示板や信号機、室内灯などに
広く使われるようになったLED(発光ダイオード)
照明があります。


光の三原色(RGB=RED、GREEN、BLUE)のうち、
青色LEDは世界中の企業や技術者が開発に
シノギを削っていましたが、誰にもできません
でした。





青色LEDが開発されていなかったために、
光の三原色ができず、あらゆる色彩の光を
生み出すことができていませんでした。


中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校
教授は、実質的に一人で青色LEDを開発しました。


市販の装置をそのまま使っていては、青色LEDは
開発できないと分かると、中村さんは自ら装置を
改良し、青色LEDを開発したのです。


中村さんは特許を出願し、特許庁から承認され
ました。


ところが勤務先の日亜化学工業の評価は極めて
低いものでした。


そこで中村さん(原告)は日亜化学工業(被告)を
相手取って訴訟を起こしました。


第一審では、原告側の主張が認められ、
200億円の価値があると認定されました。
実質的には600億円とも言われました。


被告側は、その判決に納得せず、即時に控訴
しました。


その結果、何と第一審の100分の1の2億円と
認定されたのです。


最高裁へ上告することも考えたそうですが、
これ以上、時間と訴訟費用をかけることは、
研究者として損失が大き過ぎると判断し、
上告を取りやめたそうです。


2億円でもいいじゃないか、と思われるかも
しれませんが、
「裁判費用や弁護士費用、証拠資料の収集
のための費用、さらに膨大な時間を費やし、
ほとんど何も残らなかった」、
と中村さんは語っています。


中村さんがこの訴訟に拘ったのは、日本の
研究者が過小評価されている現状を打破したい
と考えたからでした。


傷心の中村さんは、国内外の多くの企業や大学
からの招聘がありましたが、
「もう日本には未練がない」
ということで、すべて断り、
以前から声をかけられていた米カリフォルニア大学
サンタバーバラ校教授となりました。頭脳流出です。


現在、新たな研究に日夜勤しんでいるそうです。
日本にとって大きな損失です。


裁判官に最先端の科学技術の知識を要求しても
到底無理な話です。科学技術の乏しい知識を前提
に、判決を下すのは無謀です。


その点、米国には「知的財産高等裁判所」
(知財高裁)が、はるか以前から設置され、
知的財産権(特許など)に関する訴訟を取り扱って
います。


ようやく日本でも、米国に倣って「知的財産高等
裁判所設置法」(知財高裁設置法)が施行され
ました。


下記のリンクをご参照ください。
施行されたのは、平成17年4月1日です。
知的財産高等裁判所設置法
(平成十六年六月十八日法律第百十九号)



施行されてから9年以上が経過していますが、
めざましい成果を上げているとは言い難い
ですね。


科学技術に明るい裁判官の育成が進んでいる
とは、到底言えないからです。

知的財産高等裁判所 Wikipedia から


知的財産権を取り扱う、知財高裁と同様に、
医療事故の訴訟を専門に扱う裁判所が必要
ではないか、と思いました。


ただ、知財高裁は「高等裁判所」であり、
原告か被告のどちらかが、判決に不服を申し立て
上告した場合、結局、最高裁で争われるので、
知財高裁の裁定が尊重されるのか、疑問があります。



話が脇道にそれました。
話を戻します。



リベラル・アーツ

小松さんは、医学部に対しても批判的な目を向けて
います。医師になるまでの一般教養をしっかり身に
つけさせるべきだ、という意見です。


 医学部に入ると6年間の教育を受けますが、

 医師を育成するための重要なこと教育が

 不足しています。文学、歴史、哲学、思想史

 といった思索を深めるような教養科目は二の次

 で、専門教育に偏りすぎています。

 指導的医師になるためには、知性、教養が

 不可欠です。現在のような医療混乱期に、

 指導的医師に求められる能力は、医学部での

 教育では得られません。教養教育が重要だと

 思いますが、必ずしも、大学で直接教える必要

 はありません。イギリスの大学生は入学資格を

 得ると、1年間大学に行かずに世界を旅して

 回ることが許されるそうです。若い時期には

 人間としての基礎、土台をつくるために、

 こうした精神的放浪も必要なのだと思います。
 

  (PP.129-130)


小松さんが指摘しているのは、欧米でリベラル・
アーツ(Liberal Arts)というものです。
一般教養です。


かの世界一の大学と称される米ハーバード大学
には、教養学部(リベラル・アーツ)しかない
そうです。


以前勤務していた介護老人保健施設の理事長は、
ハーバード大のリベラル・アーツ卒でした。
ハーバード大では一般教養を学び、大学院で
専門教育を受けることを知りました。


ハーバード大学 Wikipedia から


ハーバード大学



ハーバード大学と大学院




医師が、個人の能力を伸ばすための条件

小松さんは、医師が、個人の能力を伸ばすための
4条件を提示しています。


 医師が、個人の能力を伸ばすための

 条件は、

 ①たくさんの患者を診られる

 ②勉強する時間がとれる 

 ③議論できる仲間がいる

 ④他との交流ができる、ことです。

 この4条件の中で、研修病院には、

 勉強する時間が足りないこと、仲間が

 少ないこと、交流がないことが決定的

 な問題です。研修病院は大学の医局

 よりさらに交流がないのです。

 医療に進歩、変化が求められるかぎり、

 能力を向上させるための交流、すなわち、

 人事異動制度を研修制度に組み込むべき

 です。これは個々の病院だけでできる

 ことではありません。医師の育成には

 病院間、大学間、あるいは一般病院と

 大学間の協力がどうしても必要です。 
 

  (P.140)


この本の中で、小松さんはかなり突っ込んだ
意見を度々述べていますので、反感を買う
ことが予想されます。


それでも、歯に衣着せぬ意見を言い続けられる
のは、そう簡単に負けない経験と実績に裏打ち
された自信があるからでしょう。


第3回、最終回になりますが、医療現場の過酷
な実態と、「混合診療」がメディアで取り上げ
られるようになってきましたので、日米の医療
の比較等についてご紹介します。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。





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現代医療の限界ー現場医師の本音





医療の限界とは何か? (1)



医療の限界とは何か?(1)



『医療の限界』(小松秀樹 新潮社
2007年6月20日 発行)を読んで、
医療の現状を知り、感じたことを
書いてみます。


お伝えすべきことが多く、
また私の感想や意見もかなりのスペースを
割くことになりますので、3回にわたって
お伝えしていきます。


まず、著者について紹介しておきましょう。
現在、虎の門病院泌尿器科部長をされています。


「2006年に『医療の崩壊 「立ち去り型
サポタージュ」とは何か』で、病院医療の
危機を克明に描き、発現する第一線の臨床医
として注目される」
(上掲書 著者紹介 から)


著者、小松秀樹(小松)さんは「はじめに」で
次のように書いています。


日本の医療は今、崩壊の危機に瀕している、と。


 いま、日本の医療は危機に瀕しています。

 不確実なことをそのまま受け入れる大人の

 余裕と諦観が失われました。このため、

 本邦では医療のみならず、専門家と非専門家

 の齟齬(そご)が、社会の正常で円滑な運営

 の障害になっています。本書では、社会を

 支える基本的な考え方についての齟齬を、

 可能な限り偏見から自由になる努力をしつつ、

 凝視したいと思います。一部の方は不愉快に

 思われるかもしれませんが、その際には、

 不愉快の根源をどうかお考えいただきたい。
 

  (『医療の限界』 PP.3-4)


そして、この書の眼目とも言えることを吐露しています。



 日本の医療を守っていくためには、医療提供側

 の努力だけではなく、患者、司法、メディアなど、

 社会の側にも医療に対する認識を変更してもらう

 必要があると感じました。
 

  (上掲書、以下同様 P.5)


変化についても述べています。これは前進です。


 東京地検に出向いて議論もしたし、その後、

 検察官が医療現場の実情を現場で見学する

 ようになりました。検察が様々な分野の

 専門家や、ヒューマン・ファクター工学の

 専門家のレクチャーを聴くようになりました。

 これは、各専門分野と検察の相互理解、

 ひいては、過失犯罪に対する検察の合理的な

 対応にむけての、意味のある進展だと

 思います。
 

  (P.7)


小松さんが憂慮していることは、次のことです。


 私は医療崩壊の原因は患者との軋轢(あつれき)

 だと思います。使命感を抱く医師や看護師が

 現場を離れつつある。

 このまま事態が進んでいくと、結果的に困る

 のは医療を必要とする患者とその家族です。
 

  (P.8)  (註: 赤文字は藤巻 以下同様)


小松さんは突き放しているのではありません。
危機感を抱き、率直に述べているのです。



では、始めましょう!


私たちは病気になると、医師は完治してくれる
のが、当然と考えがちです。


ですが、現実には「不治の病」は存在します。


新種の病気が発見され、原因が分からず、
その結果、治療法も確立されていない、
ということを現実にもっと目を向けるべきだ、
と思います。


医学は日進月歩進歩していますが、
医学の進歩に比例して、新たな病気が発見される
という流れがあります。


いままで一括りにされてきた症状の病気が、
実際には異種の病気であったということは
しばしばあります。


DNA(遺伝子)解析技術が進歩し、
遺伝子レベルで原因や症状が明らかになりつつ
あります。


人間の遺伝子は、およそ2万1000ほどで、
米国の企業によって全て解明されているそうです。


遺伝子検査は商売になる可能性が高いようで、
DeNA(ディー・エヌ・エー)は、
遺伝子検査キット(基本セット9800円~)の
取り扱いを開始し、事業の柱の一つに育てていく
そうです。


サイトから引用

DeNA、遺伝子検査サービス「MYCODE」を提供開始
 MdN DESIGN INTERACTIVE から


 株式会社DeNAライフサイエンスは、一般消費者向け

 遺伝子検査サービス「MYCODE(マイコード)」を

 提供開始した。

 同サービスは、Webサイトから申し込んで、

 送付された検査キットを使って自宅で唾液採取を

 して返送する遺伝子検査サービス。

 検査を受けた人の遺伝子情報を読み取り、

 39種類の癌や糖尿病、高血圧、心臓疾患など

 19種類の生活習慣病、その他疾病リスクと肥満や

 肌質などの体質関連を合わせて、

 最大で282の検査項目に関する情報を提供できる。

 検査結果を提供するだけでなく、

 疾患発症リスクを下げるためのアドバイス情報も

 併せて表示する。
 




映画『マレフィセント』(まだ観ていません)に
主演した、アンジェリーナ・ジョリーが、
遺伝子検査の結果、乳がん発症の可能性が高いことが
分かり、乳腺を全摘出したニュースは、
世界中のファンに大きな衝撃を与えました。


遺伝子検査で、将来発症する可能性の高い病気に
対策を講じることは大いに意味があると思いますが、
誰もがアンジーのようにできるわけではありません。


治療費は莫大です。


むしろ、知らなかったほうが良かった、
ということもあるかもしれません。
遺伝子検査の結果、将来どんな病気になる可能性が
高いことを知り、自分の人生が、決定づけられて
しまうかもしれないからです。


話が飛躍しそうですが、「不老不死」を願う人たちが、
現実に少なからずいます。例えば、大富豪と呼ばれる
人たちです。


自分で築いた財産を使って、「不老不死」のために、
あらゆる方法を試みる可能性は十分にあります。


生物は、生まれたら死ぬ運命にあります。
人間も生物ですから例外ではありません。


ところが、永遠に死なないということになったら、
人類史は歪められます。


それは、医学の進歩というよりも自然に反すること
なので、恐ろしいことです。


決して画期的なことではありません。
人為的に操作した結果となるからです。




遺伝子治療が、今後主流になってくることでしょう。


ただ、人間の遺伝子を操作する、つまり未知の領域に
足を踏み入れることは、神の領域へ人間が入っていく
ことであり、危険な行為だ、と思います。


宗教観を言っているのではありません。
必ず、悪用する人たちが現れるからです。


がんの治療には、現在大別して3つの選択肢があります。
1つ目は、放射線治療です。2つ目は、抗がん剤治療です。
そして最後は、外科手術です


他にもサプリメント(主にビタミンC)による治療や、
免疫療法もあります。


現実には、どれも決定打とはなっていません。
亡くなる人が減るわけではありません。
場合によっては死期を早めることもあります。


これらの治療は完治させるための治療ではなく、
それ以上悪化させないための治療です。


「延命治療」です。余命3カ月の宣告を受けた患者が、
半年延びたとしても、完治したといえるはずが
ありません。


がん治療について、小松さんは前立腺がんを例に
とって説明しています。


 がんは「早期発見、早期治療」が肝心と

 いいますが、常にそうであるとはかぎりません。

 たとえば高齢男性の多くが、無症状のままの

 前立腺がんを有しています。躍起になって

 検査を繰り返し小さながんまで「早期発見」し、

 徹底的に「早期治療」を行うと、かえって体を

 傷め、消耗させてしまうことにもなるのです。

 どんなに不老不死を願っても、人間が生き物

 である以上、一定の年齢になれば生命は維持

 できない。どんなに優秀な医師でも、

 人間本来の寿命を延ばすことはできません。
 

  (PP.19-20)


医療とは何か? これに対する、小松さんの回答は、
こちらです。


 医療とは本来、不確実なものです。

 しかし、この点について、患者と医師の認識には

 大きなずれがあります。

 患者はこう考えます。現代医学は万能で、

 あらゆる病気でたちどころに発見され、

 適切な治療を受ければ、まず死ぬことはない。

 医療にリスクを伴ってはならず、

 100パーセント安全が保障されなければ

 ならない。

 善い医師による正しい治療では有害なことは

 起こり得ず、もし起こったなら、その医師は

 非難されるべき悪い医師である。医師や看護師

 はたとえ過酷な労働条件のもとでも、

 過ちがあってはならない。

 医療過誤は、人員配置やシステムの問題ではなく、

 あくまで善悪の問題である。

 しかし、医師の考え方は違います。

 人間の体は非常に複雑なものであり、人によって

 差も大きい。医学は常に発展途上のものであり、

 変化し続けている。医学には限界がある。

 医療行為は、生体に対する侵襲(身体へのダメージ)

 を伴うため、基本的に危険である。

 人はいつか必ず死ぬ。しかも、医療は、いつでも

 すべてに対応できるような体制をとれない。
 

  (PP.21-22)


小松さんは、医療について再度強調しています。


 医療行為は不確実です。医療の基本言語は

 統計学であり、同じ条件の患者に同じ医療

 を行っても、結論は単一にならず、分散する

 というのが医師の常識です。
 

  (P.22)


「安全な医療」とは何か?

小松さんが考える、「安全な医療」とは、
このようなものです。


 「安全な医療」というのは何を指すのか。

 100パーセント安全な医療などありません。

 誤解をまねく言い方かもしれませんが、

 医療行為における安全というのはリスクと

 まったくイコールで、正確にはリスクが

 多いか少ないか、リスクを変数としてとらえる

 しかないのです。
 

  (P.23)


カリスマ心臓外科医として著名な、
南淵明宏さんは自著で医学についてこう
述べています。


 「医学とは予測する芸術である

 (Medicine is the art of guessing)」


 という、有名な格言がある。

 現実にはこの「予測」がきわめて

 難しいから、こういう言葉ができた

 に違いない。
 

  (『異端のメス 心臓外科医が教える
病院のウソを見抜く方法!』南淵明宏
講談社文庫 2011年9月15日 第1刷発行 P.36)


こちらもご覧ください。

『医師、看護師、薬剤師の秘密』(19)
 カリスマ心臓外科医が明かす驚愕の真実(1)



医学は万能と考えるのは問題であることが、
分かります。


小松さんは、この著を通じて、かなり大胆な意見を
披瀝しています。


 人間はいつか必ず死ぬということ、

 医療が不確実であるということは、

 本来社会の共通認識であるべきだと

 思います。しかし現実には、ほとんど

 のメディアが不確実性を受け入れよう

 とせず、一方的に患者と医師の対立を

 煽ってきたところがあります。 
 

  (P.28)


救急医療の問題も深刻化しています。
救命救急センターが設けられている病院は
地域ごとに限定され、その中でも受入れ
られる病院が少ないケースがあり、
患者が「たらい回わし」されているうちに
命を落とすこともあるようです。


小松さんは、実態の一部をこのように
語っています。


 救急医療の限界は、医師の能力の問題

 だけではありません。財政上、24時間

 あらゆる事態に即座に対応できる体制に

 ある病院はない。また、人は死すべき

 存在であり、救命できないこともしばしば

 ある。多くの中小の救急病院は、紛争を

 恐れて、救急医療から撤退した。

 このため、東京近郊では一部の救命救急

 センターに年間5万から6万人の救急患者

 が押しかけるようになりました。

 このような最後の砦も、医師の疲弊で危うく

 なっています。 
 

  (P.34)


医師の過酷な勤務状態だけでなく、
看護師も非常に厳しい勤務状態にあります。


 新人看護師は十分な訓練なしに、現場に投入

 されています。病院でのインシデントは

 新人看護師が当事者となる確率が最も高い

 ことが、医療機能評価機構の医療事故防止

 センターの調査で明らかになっています。

 新人看護師は、医療事故の当事者になること

 を恐れています。インシデント報告を書くと

 離職することを考えます。実際、相当数の

 新人看護師が1年で辞職します。このような

 過酷な労働条件で勤務していることを、検察、

 裁判所は考慮しない。竹槍でB-29に立ち向かえ、

 というのと似たような精神論が司法を支配して

 いるように思います。
 

  (P.55)


「インシデント」というのは、「誤りはあったが
被害がなかった事例」(P.45)です。
一方、「アクシデント」は誤りがあり被害があった
事例です。


以前、私は東京のある介護老人保健施設で経理
担当者として勤務していたことがありました。


毎日朝礼が行われ、現場スタッフから「インシデント」
と「アクシデント」の報告がされました。


さらに、「インシデント」と「アクシデント」の数と
原因を集計し、毎週「委員会」を開催し、再発防止策
を討論していました。


残念ながら、「インシデント」も「アクシデント」も
なくすことはできません。


"
現代医療の限界ー現場医師の本音



この本の中で、医療訴訟に関する話題が
多く取り上げられています。


その理由は、医療と司法、医療スタッフ(医師、看護師、
放射線技師、薬剤師)と法律の専門家(裁判官、検察官、
弁護士、法学者)との間に埋めがたい溝があるからです。


医療事故で捜査を担当するのは、どこであるかご存知
ですか? ほとんど知られていない、と思います。
医療訴訟にかかわらない限り、関心がないからです。


何と、警視庁捜査一課、いわゆる捜一です。
捜一が医療事故を担当するとは、
私も知りませんでした。


捜一は、殺人事件を担当することで知られている部署です。


 医療事故で捜査を担当するのは、東京ならば

 警視庁捜査一課。ふだんは殺人や強盗など

 凶悪犯罪を担当している部署です。

 ここの捜査官が、医師や看護師を取り調べます。

 一方、医療従事者は、ごく普通の市民です。

 警察に対して職業的犯罪者よりも弱い、

 それどころか、すぐに警察の意向に沿った「自白」

 をしてしまうこともあります。

 警察・検察は最初に有罪だという心証を得ると、

 努力の方向はあくまで有罪を立証することに

 向かいます。日本では犯罪の立証に自白が重視

 されます。事情聴取で警察の意に沿った証言を

 しないと、逮捕拘禁して「自白」を迫る。

 証拠の隠滅や逃亡のおそれがあるという理由で、

 医師や看護師までも逮捕してしまいます。

 しかし、取調室で実際に行われるのは自白の

 強要です。
 

  (P.64)

最近になって、「捜査の視覚化」が行われるように
なりました。取調室内の状況を外部から見聞きして、
自白の強要がされていないか確認できるように
なってきました。完全とは言えませんが。


取調室内での警察官と被疑者とのやりとりをビデオ
撮影し、録音することになります。


少しは改善されるのでしょうか?


「捜査の視覚化」が実現する前まではこのような
状況でした。


 密室での取り調べは録音もされず、弁護士も

 立ち会えません。自分に不利な供述を拒否

 すれば、脅されます。医療事故では「自白」

 するとしばしば略式起訴で済みますが、

 拒否すると拘留期間が延長され、起訴されて

 しまう。一、ニ審で無罪になっても、検察は

 必ず最高裁まで争います。
 

  (P.66)

ここで、警察と検察の捜査担当区分に簡単に
触れます。


逮捕されると、警察で取り調べを受け、48時間
拘束されます。48時間を過ぎると、捜査の延長を
します。ただし、捜査は検察庁に移ります。
これを「検事勾留」と言います。10日間拘束され
ますが、捜査に継続を行う場合にはさらに10日の
延長が認められます。


つまり、被疑者は最長22日間拘束されるのです。
その期間に起訴するかどうかが決定されます。
起訴されると裁判が開始されます。


医療事故ではありませんが、実際に警察の
取り調べを受け、起訴され、裁判を受けた人の
生々しい証言があります。


取り調べを受け、裁判を受け、有罪になり、
刑に服した人でなければ、とても言えない内容
です。


 問題はですね、裁判官が検察の言いなりに

 なっているということなんですよ。

 公判での供述よりも検事調書の信用性が

 高いというんですから。神聖なる法廷の

 裁判長が、自ら裁判を否定している。

 それじゃあ、いかんでしょう。

 (鈴木宗男氏)
 

  (『野蛮人のテーブルマナー 
  「諜報的(インテリジェンス)生活」の技術』
  佐藤優 講談社 2009年1月28日 第1刷発行 P.110)



 日本人は人前では本音を言わず、

 検察の取調室のような密室ならば、

 本当のことをしゃべる、という

 前提の下に法律ができているから。

 (田中森一氏) 
 

  (上掲書 P.111)


鈴木宗男氏についてはご存知でしょう。
元衆議院議員、新党大地代表。新党大地・真民主代表
です。


田中森一氏については説明が必要です。


 1943年生まれ。元検察庁特捜検事・元弁護士。

 2000年に石橋産業事件の被疑者として逮捕。

 2008年2月に上告が棄却され実刑判決が確定。

 現在、服役中。
 

  (上掲書 第二章「諜報的(インテリジェンス)」
 に生きるススメ 対談出席者の紹介から P.101)

その後、2012年11月22日滋賀刑務所から仮釈放。
田中森一 Wikipedia から)


田中氏は元特捜検事で元弁護士という肩書を
持っていますから、法律のプロです。


その人が逮捕され、起訴され、実刑判決を受け、
服役中ということなので、説得力があります。


ちなみに、この対談は田中氏が服役する前に
行われました。



塀のなかで悟った論語 田中森一



いかがでしたでしょうか?
私は、医療従事者の肩を持つわけではありませんが、
医療従事者の過酷な労働条件や、警察や検察、裁判所
との医療対司法の戦いにハンディがあることは認めます。


第一回はここまでにします。


第二回は、引き続き医療対司法の対立、大学病院内の
医療従事者の実態などを取り上げます。





         
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プロフィール

医師看護師薬剤師の味方

Author:医師看護師薬剤師の味方
藤巻 隆(ふじまき・たかし)と申します。

私のメインサイト 本当に役に立つビジネス書 をご覧になったことがあるかもしれません。

今年2013年4月16日で、立ち上げてから12年目を迎えます。

今度は、医師、看護師、薬剤師の方の転職を支援するためにブログを立ち上げました。

より条件の良い職場に移りたいとお考えの方は、一般企業に務められている方も、医師、看護師、薬剤師の方も同じです。

さらに、医学に関するいろいろな情報を掲載し、ブログ閲覧者に資することを目指します。

建設的なコメントを希望していますが、有益なコメントであれば、厳しいご意見もお受けします。

あなたとともに私も成長し、このブログが定評を得るようになれば、パーソナル・ブランディング(自分ブランド力)を高めることができます。

どうぞよろしくお願いします。

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